根を張って移動しないことを選んだ植物は一見静的な印象を与えますが、細胞の中では、様々な細胞内小器官 (オルガネラ) の機能や形態が刻々と変化しています。動くことができないからこそ、環境の変化を敏感に察知し、それを信号として伝え、環境の変化に対応します。それを支えるオルガネラは、植物の種類はもちろんのこと、同じ植物においても器官、組織、細胞の種類の違いによって、また、同じ細胞においても成長段階に応じて、形や大きさ、数などを大きく変化させます。このオルガネラの柔軟な変化の能力(可塑性といいます)こそ、植物の営みに必要なものなのです。このような柔軟な変化を示すため、これが各オルガネラの代表という像はありませんが、ここでは植物科学研究の中で得られたダイナミックなオルガネラの動態の一端をご紹介します。
オルガネラの絵の上にカーソルにもっていくと、各オルガネラの蛍光像がご覧になれます。
ペルオキシソーム(Peroxisome)
約1µmほどの球形のオルガネラ。脂肪酸の代謝や活性酸素種の除去、植物ホルモンの生合成に一部を司る機能をもつ。写真はペルオキシソームへの輸送配列を付加したGFP融合遺伝子を発現しているシロイヌナズナの根の細胞。
核(Nucleus)
生命の設計図である遺伝情報をDNAとして格納しているオルガネラで各細胞の中に1つ存在する。DNAの複製やmRNAへの転写が行われている。写真はmRNAの成熟に関わるタンパク質とGFPとの融合遺伝子を発現しているシロイヌナズナの根の細胞で、微分干渉像で細胞の形がわかるようにしたもの。根から上の方に伸びているのは根毛。
ミトコンドリア(Mitochondria)
約1µmぐらいの球形〜楕円形の形状として観察される。分裂して数を増やすが、ミトコンドリア同士で融合するため、長くなったり、ネットワーク状の構造をとることもある。はるか昔にバクテリアが共生してできたオルガネラと考えられており、細胞核とは別に独自のDNAをもつ。主にATPを生産してエネルギー供給を司る。写真はミトコンドリアへの移行配列をGFPにつないだ遺伝子を発現しているシロイヌナズナの根の細胞。
(東京大学大学院農学研究科 有村慎一博士より材料を提供)
細胞質(Cytosol)
葉緑体(Chloroplast)
色素体 (Plastid) の1つの形態で植物に特徴的なオルガネラの1つ。主に緑色組織に存在して光合成を司る。シアノバクテリアが、はるか昔に共生して生じたオルガネラと考えられている。細胞核とは別に独自のDNAをもつ。写真は葉緑体への移行配列をGFPにつないだ遺伝子を発現しているシロイヌナズナの葉の細胞。中央の黒く見える液胞によって、縁に押しやられている楕円形に見える緑色の構造物が葉緑体。
(静岡県立大学生活健康科学科 丹羽康夫博士より材料を提供)
微小繊維(Microfilament)
アクチンを主成分とした繊維状の構造物。植物細胞では、ミトコンドリアや葉緑体、ペルオキシソームなどのオルガネラはこの微小繊維を利用して細胞内の動いている。写真はアクチン結合タンパク質にGFPにつないだ遺伝子を発現しているシロイヌナズナの根の細胞。繊維状の構造物が見てとれる。
(名古屋大学農学研究科 竹本大吾博士より材料を提供)
微小管(Microtubule)
主にa-チューブリンとb-チューブリンというタンパク質から構成される直径25 nm程の中空の管の構造をとり、細胞伸長や細胞分裂において重要な働きを担っている。写真はb-チューブリンにGFPにつないだ遺伝子を発現しているシロイヌナズナの葉の細胞。繊維状の構造物が見てとれる。
(奈良先端大学院大学バイオサイエンス研究科 橋本隆博士より材料を提供)
小胞体(ER: Endoplamic reticulum)
細胞内にはりめぐらされたネットワーク状の構造物で、タンパク質の分泌や修飾に関与している。写真は小胞体残留配列を付加したGFP融合遺伝子を発現しているシロイヌナズナの子葉の細胞。子葉や根ではネットワーク状の構造物に加え、ERボディと呼ばれる葉巻様のオルガネラも観察される。
液胞(Vacuole)
成熟した植物細胞では、その体積の90%近くを占めるオルガネラで、植物細胞の伸長や分化、老廃物の除去などに関わっている。内部は酸性に保たれており、タンパク質や色素、無機物が蓄えられている。写真は液胞への輸送配列を付加したGFP融合遺伝子を発現しているシロイヌナズナの根の細胞。葉巻様の構造物はERボディ。
ゴルジ装置(Golgi apparatus)
電子顕微鏡などでは、膜で囲まれた扁平な嚢が数枚重なった構造物として観察される。写真はゴルジ装置に局在するタンパク質とRFPとの融合遺伝子を発現しているシロイヌナズナの葉の細胞。観察する部位によっては、この写真のように粒状の構造をとることもある。
(京都大学理学研究科 上田晴子博士より写真を提供)